
スキルの先にあるもの
これからのダンスに必要な「経験」と「ミュージカリティ」
最近、世界中のダンスシーンを見ていると、スキルのインフレがものすごいスピードで起きていると感じます。
特にブレイキンでは、昔なら「一握りのダンサーしかできない」と思われていたような技を、若い世代が当たり前のように身につけています。
パワームーブのスピード、技の難易度、コンビネーション、フリーズ。
ダンスの技術そのものが、どんどん進化しています。
これは決して悪いことではありません。
むしろ、ダンスが進化している証拠です。
ただ、技術のレベルが全体的に上がっていくほど、僕は「ミュージカリティ」の重要性がさらに高くなると思っています。
「何ができるか」から「どう踊るか」へ
難しい技ができる。
たくさん技を知っている。
速く回れる。
高く跳べる。
もちろん、それは素晴らしいスキルです。
でも、同じような技を多くの人ができるようになった時、
「その人だからこそ見たい」と思わせるものは何なのか?
ここが重要になってきます。
それが、僕は「どう踊るか」だと思っています。
音楽をどう感じるのか。
どこで動くのか。
どこで止まるのか。
どこで技を見せるのか。
そして、どんな空気を作るのか。
同じ技でも、音楽との関係性によって見え方は全く変わります。
ミュージカリティは、音を取るだけではない
ミュージカリティというと、
「ビートに合わせる」
「音ハメをする」
というイメージがあるかもしれません。
もちろん、それも大切です。
でも、僕はミュージカリティをもっと広く考えています。
それは、
「音楽をどう感じ、それを自分の身体でどう表現するか」
ということ。
そして、その「感じ方」には、その人の経験が大きく関係していると思います。
自分が見てきたものが、ダンスになる
同じ音楽を聴いても、全員が同じように踊るわけではありません。
なぜなら、一人ひとりが違うものを見て、違う経験をしてきたからです。
どんな音楽を聴いて育ったのか。
どんなダンサーに影響を受けたのか。
どんな人と出会ったのか。
どんな場所で踊ってきたのか。
どんな失敗をしてきたのか。
どんなことで嬉しくなったのか。
そういった経験が、自分の中に少しずつ蓄積されていきます。
そして、それが音楽を聴いた瞬間に身体から出てくる。
だから、ダンスにはその人の人生が出るのだと思います。
ダンス以外の経験も大切
だからこそ、ダンサーにはダンス以外の経験も必要だと思っています。
映画を見る。
ライブに行く。
美術を見る。
スポーツを見る。
旅行をする。
自然の中で遊ぶ。
いろいろな人と話す。
普段行かない場所へ行ってみる。
ダンスとは全く関係のないことを経験してみる。
一見すると、ダンスには何の関係もないように思えます。
でも、そういった経験が自分の感性を作っていきます。
例えば、映画を見て感じた「間」。
スポーツを見て感じた「躍動感」。
美術作品から感じた「形」。
人との会話から生まれた「感情」。
そういったものが、いつか自分の動きや表現に繋がっていく。
技術は練習で身につく。でも、表現は経験から生まれる
僕は、
技術は練習で身につく。
でも、表現は経験によって豊かになる。
と思っています。
だから、ダンスが上手くなりたいからといって、ダンスだけをやればいいわけではありません。
もちろん、練習は必要です。
技術を磨くことも必要です。
でも同時に、たくさんのものを見て、たくさん感じて、たくさん経験する。
それが、最終的に自分のダンスを作っていくのだと思います。
「上手い人」から「この人にしか踊れない人」へ
スキルのインフレが進んでいくこれからの時代。
「何ができるか」だけでは、差を作ることが難しくなっていくかもしれません。
だからこそ、
「この人にしか踊れない」
というものが大切になる。
それは、特別な技だけではありません。
その人が見てきたもの。
感じてきたこと。
経験してきたこと。
失敗してきたこと。
好きになったもの。
そういったものが混ざり合って、初めて生まれるものです。
子どもたちにも、ダンスの外側を見てほしい
だから僕は、子どもたちにもダンスだけを教えたいとは思っていません。
もちろん、ダンスの技術はしっかり教えたい。
でも、それと同じくらい、
「いろいろな世界を見てほしい」
と思っています。
たくさん遊んで、たくさん笑って、失敗して、いろいろな人と出会って、いろいろなものに興味を持つ。
そうやって豊かになった経験が、いつかその子のダンスに表れる。
ダンスは、スタジオの中だけで完成するものではありません。
日常のすべてが、ダンスにつながっている。
技術を磨くこと。
音楽を感じること。
そして、自分自身の人生を豊かにすること。
その全部が合わさった時、
「上手いダンス」から「その人にしかできないダンス」
に変わっていくのだと思います。
スキルがどれだけ進化しても、最後に人の心を動かすのは、技の難しさだけではない。
その人が何を感じ、何を伝えようとしているのか。
これからのダンスは、そこがますます大切になっていくのではないでしょうか。